この点で、AI技術が重要な役割を果たすと考えられます。AIは複雑なパターンを識別し、大量のデータから迅速に有用な情報を抽出する能力を持っています。これらの技術を活用して、生物学の新たな地平を開拓することを期待しています。
その一環として、基礎生物学研究所では昨年、アイデアコンテスト(Ideathon)を開催しました。対象となるデータセットは、コミュニティ科学由来の多量の生物画像です。これらの画像からどのような洞察を得られるか、また、その洞察をどのように得るかが重要です。
アイデアコンテストの優秀な作品のひとつに中部大学の新谷正嶺先生の作品がありました。タイトルは「AIと多視点画像解析およびデータ集約による次世代生物百科事典3.0の構築」(アイデアの内容は後述)。
本コンテストでは、このアイデアを実装するコンテスト(Hackathon)です。対象はカワセミとします。一枚あるいは複数のカワセミの画像から3Dモデルを構築していただきます。画像データセットは私たちがご用意しました。ぜひあなたの手で2次元の写真から立体的なカワセミを復元してみてください。その手法は次世代の生物百科事典3.0の実現に役に立つでしょう。
参加者のレベルに応じて上級と初級の課題をご用意しました。あなたのご応募をお待ちしております。
カワセミの画像から、カワセミの立体モデルを構築する。
● 上級課題:大量の異なる複数画像から高精度3Dモデルを構築
● 初級課題:シングル画像から3Dモデルを構築
2024年アイデアコンテストの入賞作品
”AIと多視点画像解析およびデータ集約による次世代生物百科事典3.0の構築”
生物画像データとそのメタデータをAI技術を用いて解析・統合・集約し、さまざまな角度から見た生物の姿や動きを推定・再現した、次世代の生物百科事典3.0を構築します。従来の百科事典では一枚の写真や限られたテキストでしか表現できなかった生物を、さまざまな角度から観察できるようにすることで、教育や研究に貢献します。まず、iNaturalistから生物画像とそのメタデータを収集し、詳細なデータセットを構築します。収集した画像データとメタデータを整理し、AI技術を用いて、さまざまな角度から撮影された画像を統合し、生物の3Dモデルを構築します。この過程で、形態や動きを解析し、動的なモデルを生成します。
アイデア発案者からのメッセージ
参加を検討してくださっている皆さまへ
本コンテストは、コミュニティサイエンスから生まれた膨大な生物画像データを最大限に活用し、今まで誰も見たことのない「立体的な生物像」をデータから復元することが目標です。 この課題は、単なる3Dモデル作成の枠を超え、世界中の観察者が集めた多様な視点・情報を“科学的知識”として再構築する、新しいサイエンスへの挑戦でもあります。
公開データの集約やAI技術の活用は、今まさに現代科学の最先端が直面している大きなテーマです。自分自身の工夫や発想でデータを融合し、科学的にも価値ある成果を生み出すという経験は、必ずや今後の研究や仕事にも生きてくるでしょう。
「本当に意味のあるデータ活用」とは何か、その一端をぜひ皆さんの手で切り拓いてください。皆さまの挑戦と創造を心から楽しみにしています。
採用アイディア発案者(新谷正嶺)